臨床検査科長あいさつこのページを印刷する - 臨床検査科長あいさつ

臨床検査科長 三村雄輔

臨床検査科長 三村雄輔 (医学博士・臨床研究部長)
 臨床検査科は10名の臨床検査技師により運営され、迅速かつ正確さをモットーに生化学、生理、病理、細菌検査、そして輸血一元管理業務を行っています。良質な臨床検査データを提供できるように、日々全国共通のコントロール検体を用いた内部精度管理に加え、年3回の外部臨床検査精度管理調査(日本医師会、日本臨床衛生検査技師会、山口県臨床検査技師会)を受検し、それらの結果を受けて是正改善を繰り返して検査データの品質を保証しています。
 当院の患者さんには呼吸器疾患(肺癌、悪性中皮腫、肺炎、間質性肺炎、COPD、喘息など)が多いため、病理検査、生理検査、細菌検査部門では肺癌組織の遺伝子変異分析、肺拡散能力や残気量検査、結核・非結核性抗酸菌症のPCR検査なども行っています。また新型コロナウイルス感染症の重点医療機関としてコロナPCR検査も行い、感染対策に貢献しています。

 2020年1月30日WHOによりパンデミックが宣言された新型コロナウイルスに係わるPCR検査総数は1億超と日本の人口を越えつつあります(令和5年2月時点、厚生労働省HP)。現在、一日に可能なPCR検査能力は42万件で、これほどPCR検査が大規模に行われたことは過去にありません。国立感染症研究所はパンデミック前から新型コロナウイルスDNA配列(武漢株)を元にPCRプライマー(標的遺伝子の目印)をデザインし、増幅DNA断片に特異的に結合する蛍光プロープもデザインし、2020年2月18日にN2プライマーセットとして公開しました(Shirato他、Jpn J Infect Dis, 73, 304-7, 2020)。日本ではコロナPCR検査に必ずN2セットを使用しています。高感度のうえ、特異度99.9%以上と、健常者や他のウイルス感染者が陽性と誤診されるリスク(偽陽性率)はゼロに近い完成度です。当院でも2020年5月に前述の試薬を導入し、研究用リアルタイムPCR装置を用いて約1000人の患者に実施し、偽陽性はゼロでした。今では全自動PCR装置が当院も含め全国の重点医療機関等で稼働し、その感染対策への貢献は計り知れません。新型コロナ感染症はインフルエンザと違い、潜伏期間が長く、無症状でも感染拡大してしまうため、PCR検査なしで感染初期の無症状陽性者を検出し、封じ込めることはほぼ不可能であることを学びました。
 さて、前述の国立感染症研究所の功績をご存知の方はあまりいないと思います。2020年の第1、2波の日本のコロナ感染者数や死亡数が欧米に比べ格段に少なかった理由は「ファクターX」と言われていましたが、個人的にはその研究所職員や、パンデミック初期にPCR検査を迅速に習得して、感染リスクを伴う困難な検査を日夜献身的に手作業で施行した全国の保健所等の臨床検査技師のお陰だと思っています。臨床検査技師は縁の下の力持ちで、患者さんから見えない所で頑張っています。